オフィスでウェルビーイング施策を実践する従業員の様子

ウェルビーイング施策

企業のウェルビーイング施策成功事例:従業員満足度向上の実践レポート

ハイブリッドワーク環境下で従業員エンゲージメントを高めた最新事例と具体的な施策を紹介します。

はじめに:ウェルビーイング施策が注目される背景

2025年に入り、企業の健康経営施策は新たな局面を迎えています。経済産業省が2024年12月に公表した「健康経営の目指すべき姿(2.0)」では、Personal Health Recordの利活用や女性特有の健康課題への対応が重点領域として明示されました。また、ハイブリッドワークが定着した現在、従業員のメンタルヘルスケアとエンゲージメント向上は、企業の持続的成長に欠かせない経営課題となっています。

本記事では、従業員数約500名のIT企業が2025年4月から9月にかけて実施したウェルビーイング施策の全容を紹介します。この取り組みにより、従業員満足度スコアが18%向上し、メンタルヘルス不調による休職率が34%減少という顕著な成果が得られました。

企業が直面していた課題

同社は2023年からハイブリッドワークを本格導入していましたが、以下のような課題が顕在化していました。

主な課題

  • コミュニケーション不足:リモートワーク中心の働き方により、チーム内のカジュアルな会話が減少。心理的安全性の低下が懸念されていました。
  • ストレスの可視化困難:従業員のストレス状態を把握する手段が年1回の健康診断のみで、早期介入が難しい状況でした。
  • 健康施策の利用率低迷:既存の福利厚生(フィットネスジム補助など)の利用率が15%程度に留まり、制度の形骸化が進んでいました。
  • 女性従業員特有の課題:更年期症状や月経関連の体調不良について相談しづらい環境があり、生産性への影響が無視できない状況でした。

2024年度の従業員調査結果

従業員エンゲージメントスコア:62点(業界平均68点)
メンタルヘルス不調による休職者:年間12名
健康施策利用率:15%
ワークライフバランス満足度:56%

導入したウェルビーイング施策の全体像

これらの課題に対応するため、同社は以下の4つの柱からなる包括的なウェルビーイング施策を導入しました。

1. AIヘルスコーチの全社導入

生成AI技術を活用したパーソナルヘルスコーチアプリ「WellnessAI」を全従業員に提供。このアプリは以下の機能を備えています。

  • 毎日の体調・気分の記録とAIによる分析
  • ストレス傾向の可視化と個別アドバイス
  • 睡眠・運動・栄養に関するパーソナライズされた行動提案
  • 匿名化されたデータの人事部門への集約(本人同意のもと)

2. ウェアラブルデバイスの配布と健康データ活用

希望する従業員にApple Watch SE(第2世代)を配布し、心拍変動(HRV)、睡眠の質、活動量などの客観的健康データを収集。AIヘルスコーチと連携することで、より精度の高い健康アドバイスを実現しました。

配布率は全従業員の68%(340名)に達し、継続利用率は87%と高水準を維持しています。

3. オンラインカウンセリングとピアサポート制度

産業医・臨床心理士によるオンラインカウンセリングを月2回まで無料で利用できる制度を整備。加えて、メンタルヘルスに関する研修を受けた社内ピアサポーター制度を新設し、気軽に相談できる窓口を増やしました。

4. 女性の健康課題対応プログラム

産婦人科医監修のもと、以下の施策を実施しました。

  • 更年期・月経関連症状に関する社内勉強会の開催(管理職を含む全社員対象)
  • 婦人科オンライン診療サービスの福利厚生化
  • フレックスタイム制度の柔軟運用(体調不良時の勤務時間調整)
  • 休憩室への健康管理サポートグッズの設置

6ヶ月後の効果測定結果

施策導入から6ヶ月後(2025年9月)に実施した効果測定では、以下の顕著な改善が確認されました。

定量的成果

指標 施策前(2025年3月) 施策後(2025年9月) 変化率
従業員エンゲージメントスコア 62点 73点 +18%
メンタルヘルス不調による休職者数(年換算) 12名 8名 -34%
健康施策利用率 15% 68% +353%
ワークライフバランス満足度 56% 74% +32%
平均プレゼンティーズムスコア 68% 79% +16%

定性的成果

従業員アンケート(回答率82%)からは、以下のようなコメントが多数寄せられました。

「AIヘルスコーチのアドバイスで、自分のストレスパターンが分かるようになりました。会議の前にリラックス時間を取るようになり、集中力が上がりました。」(30代・エンジニア)
「更年期症状について上司に相談しやすくなり、勤務時間の調整をしてもらえました。会社が理解してくれていると感じられることが何より安心です。」(40代・企画職)
「ウェアラブルデバイスのデータを見ることで、睡眠の質が仕事のパフォーマンスに直結していることを実感。生活習慣を見直すきっかけになりました。」(20代・営業職)

成功要因の分析

この施策が高い成果を上げた要因として、以下の5点が挙げられます。

1. 経営層のコミットメント

CEOが自らウェアラブルデバイスを使用し、全社会議でその効果を共有。トップダウンとボトムアップの両面から施策を推進したことが、全社的な浸透につながりました。

2. テクノロジーと人的サポートの融合

AIによる自動分析と、産業医・カウンセラーによる専門的介入を組み合わせることで、スケーラビリティと質の高いケアを両立しました。

3. プライバシー保護の徹底

健康データの取り扱いについて、外部専門家による監査を受け、従業員への説明会を複数回実施。データの匿名化処理と本人同意の仕組みを明確にしたことで、従業員の信頼を獲得しました。

4. 多様性への配慮

女性特有の健康課題に特化したプログラムを設けたことで、これまで声を上げにくかった従業員層からの支持を得ました。男性従業員に対しても理解促進教育を行ったことが効果的でした。

5. 継続的な改善サイクル

月次で施策の利用状況と効果をモニタリングし、従業員フィードバックをもとに機能改善を実施。PDCAサイクルを高速で回したことが、高い利用率と満足度につながりました。

課題と今後の展望

高い成果を上げた一方で、以下のような課題も明らかになりました。

残る課題

  • 世代間格差:50代以上の従業員のデジタルツール利用率が低く(42%)、対面型サポートの拡充が必要です。
  • データ活用の高度化:収集した健康データをより戦略的に活用し、組織課題の早期発見につなげる仕組みが求められています。
  • コスト最適化:初年度の施策コストは従業員一人あたり年間8万円。費用対効果の継続的検証とコスト削減の工夫が必要です。

2026年度に向けた展開

同社は2026年度、以下の施策拡充を計画しています。

  • 家族の健康管理サポートプログラムの導入
  • 感情認識AIを活用したチームコンディションの可視化
  • 地方拠点へのウェルビーイング施策展開
  • グループ会社への横展開による規模の経済効果の追求

まとめ:ウェルビーイング施策成功の鍵

本事例から得られた重要な示唆は、ウェルビーイング施策の成功には「テクノロジー」「専門人材」「組織文化」の三位一体の取り組みが不可欠であるということです。

AIやウェアラブルデバイスなどのテクノロジーは、健康状態の可視化とパーソナライズされたサポートを可能にします。一方で、産業医やカウンセラーなどの専門人材による質の高い介入も同時に必要です。そして何より、経営層を含む組織全体が従業員の健康を重視する文化を醸成することが、施策の実効性を高めます。

健康経営は一朝一夕で成果が出るものではありませんが、本事例が示すように、適切な施策設計と継続的な改善により、従業員の幸福度向上と企業の生産性向上を同時に実現することは十分可能です。

他社が参考にできるポイント

  • 経営層が率先してウェルビーイング施策に参加し、メッセージを発信する
  • AIなどのテクノロジーと専門人材によるサポートを組み合わせる
  • 健康データのプライバシー保護を徹底し、従業員の信頼を得る
  • 多様な従業員のニーズに対応した複数の施策を用意する
  • 定期的に効果測定を行い、PDCAサイクルを回す

今後も、本サイトではウェルビーイング施策の最新事例と実践的な知見を発信していきます。ご質問やご意見がありましたら、ぜひお気軽にお寄せください。